遺言書がある?ない? ー それぞれの場合の相続の流れとは

遺言書がある?ない? ー それぞれの場合の相続の流れとは

遺産を分けるうえで前提となるのが遺言書の有無です。遺言書は被相続人がどのように遺産分割をするかを記した書類であり、遺産分割は遺言書に従わなくてはいけないと決められています。

したがって、遺言書があればその意思に沿って、遺言書なしと判断されれば相続人の話し合いで遺産を分けます。

遺言書がある場合

相続手順

  • 原則、遺言書の内容に従い相続手続きが行われる。
  • 遺産の分割方法が遺言書に全て記載されている場合、遺産分割協議は不要。

メリット

  • 遺族が遺産分割について悩む必要が無い。
  • 遺産分割協議の手間が省ける。
  • 孫、嫁、友人、内縁の妻など、法定相続人以外へ財産を譲渡することも可能。
  • 子供の認知、相続人の廃除が可能。

デメリット(※:自筆証書遺言の場合)

  • 遺言書が法律上の形式要件を満たさない場合、無効になってしまう。
  • 遺言書の紛失や発見されないままの可能性がある。
  • 遺族によって、内容の改ざん、破棄、隠蔽される可能性がある。
  • 本人の意思かどうか分からず、遺族間でトラブルになる可能性がある。
  • 家庭裁判所での検認が必要。
     

遺言書がない場合

相続手順

  • 原則、法定相続人が法定相続分で遺産を相続する。
  • 相続人全員が遺産分割協議を行い、全員一致で遺産の分割方法を決定する。
  • 財産の名義変更手続きには、相続人皆の協力が必要。

メリット

  • 亡くなった本人による準備が不要である。

デメリット

  • 遺産の分割方法で相続トラブルが起きやすい。
  • 故人の意思が反映されるとは限らない。
  • 法定相続人以外への遺産の譲渡ができない。
  • 相続人多数、未成年者・行方不明者がいる場合、相続手続きが非常に複雑である。
  • 相続人全員の合意なしに手続きを進めることができない。
  • 相続人がいない場合、原則、遺産は国庫に入る。

1. 遺言書の有無を確認しよう

遺産を分けるうえで前提となるのが遺言書の有無です。遺言書は被相続人がどのように遺産分割をするかを記した書類であり、遺産分割は遺言書に従わなくてはいけないと決められています。

したがって、遺言書があればその意思に沿って、遺言書なしと判断されれば相続人の話し合いで遺産を分けます。

1-1. まず遺言書を探そう

遺言書を探すうえで知っておきたいのが遺言書の種類です。自宅に遺言書がないからと言って遺言書なしと判断しないよう注意してください。もし、遺言書が見つかれば遺産分割のやり直しもあり得ます。

自筆証書遺言を探す

自筆証書遺言とは、自分で書いた遺言書のことです。自宅を隅々まで探してみましょう。
自筆証書遺言が見つからなければ公正証書遺言や秘密証書遺言についても探しましょう。
 

公正証書遺言や秘密証書遺言を探す

公正証書遺言とは、公証役場で作成し、公証役場に保管した遺言書、秘密証書遺言は内容の精査をしないまま公証役場に保管した遺言書のことです。遺族に告げていない場合、写しを保管していない場合は遺言書検索システムを使います。
どの公証役場からでも全国の公正証書遺言と秘密証書遺言のありかを調べられます。

遺言書が見つかったとしても、遺言書が無効であれば遺言なしという扱いになります。この問題は自分で書く自筆証書遺言や、内容を確認しない秘密証書遺言で起こります。公正証書遺言は法律のプロである公証人が遺言者に代わって作成するため確実に有効です。

遺言が無効になるパターンとしては自筆証書遺言の一部を他人に書いてもらった、日付を明確に定めなかった、書式が間違っていたなど些細なものが多いです。公正証書遺言以外は、家庭裁判所の判断で有効・無効が決まります。

もし、家庭裁判所が無効と判断したら遺言なしという処理がされます。遺言に従うかどうかは相続人の自由です。

2. 遺言書がある場合

2-1. 遺言書がある場合の相続の流れ

遺言書がある場合には、どのような形で相続の手続きを進めることになるのでしょうか。
その流れを次の一覧表で確認しておきましょう。

検認とは?

自筆証書遺言があった場合、その遺言書に記載されている財産の分け方や相続人に関する事柄について争いになることがあります。

ただ、それ以前の問題として、その遺言書が本物かどうか、改ざんや偽造・変造がされていないかということで争いになる場合もありますし、発見された遺言書の内容を不服に思う相続人が破棄してしまったり、後から書き換えてしまったりするといったことも考えられます。

そのため、どのように遺言書を保管しておくかという問題が生じます。そこで、自筆証書遺言を発見した相続人は、遺言書を発見したことを家庭裁判所に申立てて、検認の手続きを行ってその内容を明確にするとともに、検認の時点において日付や署名などの状態を確認することで、その後に変造されたり紛失したりしても問題のない状態にする必要があります。

この手続きを「検認」といいます。

遺言の執行とは?

遺言書がある場合には、その遺言書に書かれている内容を実現する必要があります。記載されている内容の中には、誰かが何かの行為を行う必要があるものと、特に何らかの行為を必要としないものがあります。

遺言書の内容を実現するために必要な行為を行うことを「遺言の執行」といいます。

2-2. 自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

遺言書として一般的によく利用される自筆証書遺言と公正証書遺言とでは、相続に関する手続きに違いがある部分があります。それぞれの遺言書がある場合の手続きの進め方について確認しておきましょう。

① 自筆証書遺言がある場合

自筆証書遺言がある場合は、できるだけ早く検認の申立てを行う必要があります。
申立書や申立人の戸籍謄本・住民票、遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本など必要な書類をそろえて、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。

検認の申立てを行うと、後日、家庭裁判所から検認の期日が通知されます。申立人以外の相続人が立会いすることも認められますし、立会いがなくても検認は有効に行われます。

検認期日になったら、申立人は遺言書を持って家庭裁判所に行き、遺言書の開封を行い、検認が終了したら、検認済証明書の交付を申請します。この証明書は、相続登記などを遺言書に基づいて行う際に必要となるため、忘れずに申請を行う必要があります。

② 公正証書遺言がある場合

公正証書遺言があるとわかっている場合は、公証役場でその遺言書の写しを発行してもらうこととなります。どの公証役場で作成されたのかという点も分かっているのであれば、直接その公証役場へ行って手続きを行いましょう。

ただ、実際には公正証書遺言を作成しているのかどうかが分からない場合や、どの公証役場で作成したのかが分からない場合もあります。そのような場合は、最寄りの公証役場で検索してもらうことができます。

平成元年以降に作成した公正証書遺言について、その作成者・生年月日・性別などを管理しており、どの公証役場で作成したのかを教えてもらえます。実際に公正証書遺言の写しを発行してもらうためには、その遺言書が作成された公証役場に行く必要がありますが、遺言書が作成されていれば、確実に遺言書を手にすることができます。

そのため、公正証書遺言があるかどうか不明であっても、公証役場で遺言書の有無を確認するようにしましょう。

2-3. 遺言執行者の選定

遺言執行者とは、遺言の内容を実際に実現する人のことをいいます。
遺言書の内容にしたがって、相続人の代わりに相続財産を管理したり、名義変更の手続きを行ったりします。

① 遺言執行者を選定する必要がある場合

遺言書に記載されていても、遺言執行者がいなければ実現できない内容があります。
遺言書に以下のような内容の記載がされている場合には、必ず遺言執行者を選定しなければなりません。

  • 子の認知がされた場合
    婚姻関係にない男女間に生まれた子供について、男性が遺言書で自分の子供であることを認める場合です。
この場合、遺言執行者は認知届を作成し、役所に提出する必要があります。
     
  • 推定相続人の廃除がされた場合
    遺言者が生前に推定相続人から虐待を受けたり重大な侮辱行為を受けたりしていた場合に、遺言書でその人の相続権をはく奪することができます。
この場合、遺言執行者は家庭裁判所に廃除の申立てを行う必要があります。
     
  • 推定相続人の廃除の取消しがされた場合
    廃除を受けていた相続人について、遺言書でその廃除を取り消すこともできます。
この場合、遺言執行者は家庭裁判所に廃除の取消しを申立てます。
     
  • 不動産の遺贈を受けたが、そもそも相続人がいない場合
    遺言者に相続人がいない場合、不動産の所有権移転登記を行うことができません。
遺贈によって不動産を取得した場合、名義変更を行う際には相続人か遺言執行者のいずれかが必要ですが、相続人がいないのであれば、必ず遺言執行者を選定しなければなりません。
     
  • 不動産の遺贈を受けたが、相続人が所有権移転登記に協力しない場合
    遺贈により不動産を取得した場合には、相続人か遺言執行者が協力して不動産の所有権移転登記を行うこととなります。
しかし、相続人がその登記に協力してくれない場合には、遺言執行人を選定して登記を行うのです。

② 遺言執行者の選定方法

遺言執行者を選定するには、

  1. 遺言書で遺言執行者を指定する
  2. 遺言書で遺言執行者の選定者を指定する
  3. 家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てる

のいずれかの方法によります。

遺言書に記載された内容によっては、必ず遺言執行者を選定しなければなりません。この場合、遺言者は遺言書を作成する際に、遺言執行者を指定しておくことができます。事前に遺言執行者に指定することを打診しておけば、よりスムーズに手続きを進めることが可能となります。

ただし、事前に遺言執行者を指定することを打診していても、遺言執行者が先に亡くなってしまう場合や、気が変わって遺言執行者になることを拒否される場合も考えられます。そのような場合に備えて、遺言執行者を選定する人を指定することもできます。

遺言執行者が遺言書で指定されていない場合には、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てる必要があります。たとえ相続人であっても、遺言執行者を勝手に選ぶことはできません。相続人や受遺者、遺言者の債権者などが遺言執行者の選任を申立てることができます。

誰を遺言執行者に選任するのかという問題がありますが、基本的に未成年者と破産者でなければ、誰でも遺言執行者になることができます。ただ、すべての相続人が納得して手続きを任せられる人は、それほど多くいるわけではありません。そのため、弁護士などの専門家を遺言執行者に選定することも選択肢となります。

2-4. 遺言書があっても遺産分割協議自体は可能!

遺言書に遺産分割の方法について記載されていると、その遺言書の内容にしたがって遺産分割を行うこととなります。この場合、遺産分割協議を行うことなく遺産分割を行い、相続の手続きを進めることができます。

しかし、遺言書の内容に不満を持っている相続人がいる場合もあります。このような場合、すべての相続人が合意していれば、遺言書の内容にしたがうことなく、遺産分割協議を行うこともできます

遺産分割の内容に不満のある相続人がいる場合でも、できるだけ円満な遺産分割ができるように、遺言書の内容とは異なる形で遺産分割を行うことも、選択肢として検討する必要があります。ただ、相続人の中に1人でも遺産分割協議を行うことに反対する人がいる場合は、遺言書の内容にしたがって遺産分割を行うことはできません。

遺言書があれば、相続の際にスムーズに手続きを進めることができ、相続人同士でもめることはないと思っているかもしれません。しかし、実際には遺言書があってもさまざまな手続きが必要ですし、相続人同士でトラブルになる可能性もあります

遺言書を作成する人は、すべての相続人が納得できるような内容の遺言書を作成することを心がけるようにしましょう。また、相続人は遺言書があるからといって、その内容がすべてと考えず、揉め事にならないような相続となるようにしましょう。

3. 遺言書がない場合

3-1. 遺言書がない場合の相続の流れ

3-2. 法定相続人を確定しよう

遺言書がないと分かったら、法定相続人を確定しましょう。

まず、法定相続人となるのは配偶者と子にあたる人です。次に、被相続人に子がいない場合は直系尊属(つまり親や祖父母など)が相続人となります。そして、被相続人に子も直系尊属もいない場合は被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。この優先順位はあくまでも法定相続人に確定する順番であって、遺産の割合ではありません。

つまり、被相続人に子がいる場合は直系尊属および兄弟姉妹は法定相続人となりません。
法定相続人だけ探せばよいのは「遺言なし=法定相続人以外は遺産を相続できない」ことが確定しているからです。

3-3. 相続財産と債務を調査しよう

遺言なしということは、相続財産と債務に何があるのか把握できていない状態です。したがって、まずは遺産を分割する前に見落としている財産や債務がないか確認します。相続は被相続人の財産および債務を受け継ぐことですから、債務の確認は絶対に忘れないようにしましょう

相続財産はお金と不動産だけではありません。有価証券や生命保険、ゴルフ会員権、骨董品など様々な形で残っていますし、もしかしたら隠し財産が眠っているかもしれません。
「べつにそんなものまでお金にしなくていいや」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、相続財産を見落としてはいけない理由は「相続税の申告にかかわる」からです。相続税の申告は、相続税が0円の場合であっても行う必要があります。

相続税が発生する場合は、修正申告や申告の延滞によって税金が加算されます。遺品はすべて評価し、相続税の申告が終わるまで勝手に処分しないことが原則です。

残念ながら、被相続人が財産よりも多くの債務を抱えているケースもよく見られます。負の遺産を受け継ぐことは相続人にとって損をするばかりです。しかし、相続人が遺産を相続したくない時のためにこのような制度が設けられています。

限定承認

限定承認とは、相続人が承継する財産の範囲内で、借金等マイナスの財産を負担することをいいます(民法922条)。

限定承認しようとする場合は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に相続人全員で申し立てなければなりません。
また、一度限定承認すると、撤回することはできません。
 

相続放棄

相続財産のプラスかマイナスかに関わらず、すべての財産を承継しないことを相続放棄といいます。

相続放棄をすると、はじめから相続人とはならなかったものとみなされます(民法939条)。 意外と知られていませんが、借金以外にも、未払いの家賃や水道光熱費、滞納していた税金なども、相続放棄の対象となります。相続放棄は自分が相続人になったことを知った日から3か月以内に申し立てなくてはいけません。

限定承認や相続放棄をする条件として、財産を処分しないこと、財産を隠さないこと、財産を財産目録に記載しないことがあります。

よって、負債を相続したくない時は相続財産に絶対に手を付けないでください。葬儀費用については相応な範囲までなら不問とされるのが判例の動向です。

3-4. 遺産分割協議で一から決める

遺言なしの場合は、被相続人の意思に拘束されません。よって、遺産分割協議によって法定相続人の納得がいくように遺産を分けます。

極端な話、合意さえあれば被相続人の子が3人いても配偶者が100%遺産をもらうことや3兄弟のうちだれかが極端に多く遺産を受け継ぐことも可能です。たとえ、被相続人に冷遇されていたとしても、遺産分割協議には何ら関係ありません。逆に言えば、被相続人の思う配分で遺産を分けたければ法的に有効な遺言書を遺すしかないのです。

遺産分割協議において必要なのは法定相続人すべての合意です。ただ、遺産分割協議のために1カ所に集まるのは難しいのが現状ですから、遺産分割協議に電話で参加することも可能です。大切なのは全員の意思で遺産分割を決めることです。

法定相続人が全員揃わない際の対策

では、法定相続人のだれかが行方不明になっている、行方は戸籍附票で分かったものの一向に取り合ってくれないといった場合はどうすればよいのでしょうか。

前提として遺産分割協議は相続人全員の合意を必要とし、かつ相続には時効の概念がありません。そうである以上、法定相続人のうち一人でも省いた遺産分割協議書は無効となります。このままでは、永遠に遺産を分けられないためこのような対策があります。

不在者財産管理人の選定

不在である相続人の代わりに財産管理を行う人を不在者財産管理人と言います。

不在者財産管理人は、財産管理を主な役割としますが、家庭裁判所に権限外行為の許可という申請をすることで遺産分割協議に参加することが可能です。不在者財産管理人は、不在である相続人の代わりに遺産分割協議書に合意し、署名捺印をすることができます。

不在者財産管理人は利害関係のない人物、あるいは弁護士、司法書士を選ぶのが原則です。

3-5. 遺言書がない場合でもスムーズな遺産分割をしたいのなら弁護士に相談!

遺言なしの遺産相続を円満に行うためには、感情に囚われない第三者の目線が必要です。

当事務所では、豊富な実務経験から法律だけでは解決できない遺族の感情もサポートし、相続人みんなとって「公平」かつ「損のない」遺産相続を目指します。困っている皆様、ぜひ一度、当事務所までご相談ください。

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