知っておきたい生前対策 ー トラブルを事前に防ぐ方法や、税金の負担を軽減する手段とは

知っておきたい生前対策 ー トラブルを事前に防ぐ方法や、税金の負担を軽減する手段とは

誰もが亡くなった後、家族や親族が遺産を巡って争うことを望むわけはありません。むしろ、人々は生前に「立つ鳥跡を濁さず」という精神で、遺恨を残さずにこの世を去ることが理想的な状況だと考えているでしょう。多くの人々は、遺された家族が争うことなく、協力しながら生活できることを切望しています。

その一方で、遺族間での遺産に関する争いは年々増加しております。もちろん、これらのトラブルの発生は、必ずしも遺産を残す人の責任だけではありません。元々家族間で問題を抱えている場合もあるでしょう。

さらに、遺族は葬儀の準備や墓地の手配など、多くの複雑な事務作業を行う必要があり、これらの手続きには大きな費用が発生することもあります。また、遺産の申告や納税も必要となり、遺産に対する相続税の負担は決して小さくありません。

しかし、家族や親族間の遺産を巡るトラブルを事前に防ぐ方法や、葬儀後の複雑な事務作業や税金の負担を軽減する手段は存在します。それらの方法は、主に被相続人、つまり本人による生前対策によるものです。

1. 生前対策を行うメリット

ではまず、生前対策を行うメリットについて解説致します。

  • 遺族間や相続人同士のトラブルを防ぐ
  • 煩雑な役所での手続きや相続手続き、遺産整理の負担が軽くなる
  • 相続税の負担が軽くなる  


このように、相続の生前対策を行なうメリットは遺族や相続人に対するものであり、ご自身に対するメリットではありません。

しかし、ご自身の死後、ご家族が抱く不安や心配を少しでも和らげることは、きっとご自身にとっても大きなメリットとなるはずです。また前述したように、ご自身のこれまでの人生を振り返る絶好の機会にもなります。

では、相続の生前対策はいつから始めたらいいの?そう思う方も多いかと思います。

2. 生前対策を行うタイミング

年齢を重ねれば重ねるほど可能性は大きくなりますが、死は年齢に関係なく誰にでも必ず訪れるものです。さらに、死はある日突然やってくるといったケースも非常に多いのが現実です。
 

よって、誰もが死の準備を事前に整えることができるわけではありません。例えば、不慮の事故により突然死を迎えてしまった方は、遺族にメッセージを残すこともできません。


このように、相続の生前対策を始めるタイミングは早いに越したことはありません。“思い立った時が適切なタイミング”と言って良いでしょう。

3. 生前対策の大きな流れ

生前対策には、財産管理や遺産分割、相続税対策、さらには認知症に備える対策など多岐にわたります。生前対策の大きな流れとしては、所有財産の整理を行い、どのような目的で生前対策を行うのかを判断するため現状分析をし、最後に目的を実現できる生前対策を選択することになります。

そこで、このような遺族間のトラブルを予防し、遺族が葬儀後に直面するであろう様々な問題を軽減するための生前対策について順番に説明致します。

3-1. 所有資産の整理をする

預貯金や有価証券、不動産など、自分の所有財産を把握しましょう。

相続財産がどれだけあるのか、把握しておくことは極めて重要です。もちろん預貯金だけではありません。ご自身が名義となっている自宅や土地、車、各種コレクション、株などの有価証券、ゴルフ会員権、貴金属類等経済的価値のあるものすべてリストアップし、目録を作成しましょう。もし借金や住宅ローンのような負債もあるならば、それも忘れず目録に入れましょう。

そうすることによって遺産を整理する遺族の負担を軽減することができ、また家族と相談して不要なものがあればご自身で処分して金銭に変える余裕も生まれます。
仮に負債があったとしても、事前にわかっていればそれなりの対策を取ることも可能です。資産以上に負債が大きければ、相続放棄という選択を検討することもできます。

不動産の場合、現在住んでいる家以外に、借地や借家、譲り受けた農地や山林など、誰が名義人なのか再確認しましょう。不動産の名義人は、法務局で登記簿謄本を取得すると確認できます。

目録は最低でも1年に1回は更新するようにしましょう。

3-2. 相続人の確認をする

相続財産の目録を作成したら、法定相続人を確認します。

法定相続人が誰になるのか、順位はどうなるのか等についてしっかり検討するために家系図の取得をおすすめします。


被相続人が、独自に相続人を決めても問題ありません。例えば、老後の面倒を見てくれた長男に相続財産の○割を相続させる、等と決めることもできます。その旨を遺言書に記し捺印して正式な書類としておけば、相続開始後、その遺言内容は執行されることになります。
 

ただし、特定の相続人1人に全財産を相続させたとしても、後々他の相続人が遺留分を請求することがあります。そこから法廷騒動に発展してしまうこともあるので、要注意です。

3-3. 現状分析をする

安心した老後の生活や相続について家族に安心してもらうためには、現状分析が不可欠です。生前対策を行ううえでの現状分析のポイントとして、自分の老後や死後に家族にどう行動してほしいか、今の自分は何をすべきかを明確にすることが挙げられます。方向性を誤ってしまうと、間違った生前対策を選択しかねません。

たとえば、

  • 円満の遺産分割
  • 円満の相続手続き
  • 納税資金の確保
  • 相続税の軽減

などが課題として考えられるでしょう。こうした課題に対して、生前対策のあらゆる選択肢を比較・検討する必要があります。なかには、判断力が低下してしまうと選択できない生前対策の方法もあるため注意が必要です。

相続人が複数人存在する場合、遺産分割が問題となります。例えば、相続財産に土地があった場合です。土地を人数分で割って、相続人全員がそれで納得すればいいのですが、どうしても不公平感は発生してしまいます。まして家などは分けることができません。
そこで財産を分割しやすい状態にしておけば、つまり売却するなどして現金化しておけば、容易に分けることができます。

また現金は、相続税の納税資金としても使うことができます。現金での相続は、相続人に取ってメリットになるのです。

相続対策を実行するにあたり、上記で挙げた課題を解決するような対策を検討しましょう。たとえば、円満な遺産分割が目的である場合には、生前対策として遺言書が考えられます。

遺言書がないと、相続人が参加する遺産分割の協議で紛争になるケースが考えられるだけでなく、遺産分割が確定しないことには相続税を軽減する特典も受けられません。また、相続税の軽減が目的の場合には、配偶者の税額軽減を利用するなど、特例を活用した生前対策が考えられます。

4. 知っておきたい生前対策

生前対策として考えられることは、主に以下の5つになります。

次は、各生前対策に対してメリットやデメリットを紹介していきます。 最善の対策方法を検討しましょう。

4-1. 遺言書

相続における各種のトラブルを防ぐためには、被相続人の思いを遺言として遺族、相続人に明確に伝えることが非常に重要です。

遺言書とは、被相続人が、自分の財産を誰にどのような形で残すのかなど、自分の最終意思を死後に遺した文書です。被相続人の死後に相続が発生するため、遺言書の内容が明らかにされた場合でも被相続人の意思に基づいて書かれたものかを確認できません。堅苦しい文書のイメージの遺言書ですが、その分遺族や相続人に与える影響は大きく、民法で規定された通りに作成すれば、法的効力を発生させることもできます。

民法によって、「遺言事項」と呼ばれる、遺言と認められる事柄について方式が厳格に定められています。遺言事項に当たる事柄を記載することで、遺言は法的な効力をもつことになります。

そこまで大袈裟なものではなく、自分のこれまでの人生を振り返り、自分の思いをもっと自由に書き記したい、遺産だけでなく自分の思いや希望を遺族に伝えたい、と願うならばエンディングノートが適しています。

エンディングノートとは、人生の終末期に迎える死に備えて自分の思いや希望を書き記すノートです。遺言書のように決まった形式のものではなく、自由になんでも書き記すことができます。無地の大学ノートでも、市販のエンディングノートを活用してもいい。パソコンを使ってもいいでしょう。ただ、遺言書のように法的効力はありませんので、そこは要注意です。

4-1-1. 遺言書作成時の注意点

遺言書を作成する際に注意したい点として、以下の3つが挙げられます。

遺言は遺言能力がないとできない

遺言能力とは、遺言を残す本人が遺言を理解して、その結果自分の死後にどのようなことが起きるのかを予見できる能力をさします。遺言能力を有するかについては、法律の専門家のあいだでも確たる見解はありません。裁判においては、遺言をする内容の重要性や難しさと、遺言者の能力を表すさまざまな要素を総合的に判断したうえで、遺言能力があるかどうかを判断します。
 

ルールに従った遺言でないと法的に効力をもたない

法的に効力をもつ遺言事項は民法によって定められています。よく使われる遺言書の作成方法は、自筆証書遺言と公正証書遺言です。自筆証書遺言の場合、長期の保存に耐えうるような便せんと封筒、ペンを用意し、「全文」「日付」「氏名」を自筆します。押印して封印などを施して遺言書を保管しましょう。 保管場所に困った場合には、自筆証書遺言書保管制度を利用して遺言書を法務局に保管してもらうことも可能です。公正証書遺言の場合、2人以上の証人立会いのもと、遺言者が遺言内容を口述して公証人が筆記作成します。公証役場で保管されるため安心です。
 

法的効力のある遺言事項は定められている

遺言に書ける遺言事項は民法で定められています。具体的には、相続分や遺産分割方法の指定や特別受益の持ち戻しの免除、遺留分侵害額請求の負担方法の定めや遺言執行者の指定、未成年後見人や未成年後見監督人の指定などが挙げられます。たとえば、葬儀や埋葬の方法といった遺言事項以外の事柄は、法律上の効果が認められるものではないので注意しましょう。

4-1-2. 遺言書のリスク

遺言書のリスクもあります。

遺言書の作成には法的な知識が必要

法律の知識の乏しい人が自筆証書遺言を作成したとしても、ルールに従っていないと法的に有効な遺言書とはいえません。また、場合によっては遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。公正証書遺言にしたからといって、法的に効力をもつ遺言になるとも限りません。 たとえば、遺言者本人が認知症と診断されていた場合には、公正証書遺言であっても無効になったケースがあります。

遺言書の作成には、法律家のアドバイスを受けるもしくは依頼するのが最適と言えるでしょう。
 

相続人や受遺者が遺言者よりも早く死亡した場合、その人への遺言部分は失効する

遺言者が亡くなる前に受遺者が死亡した場合は、遺贈の効力は発生しません。遺言者が推定相続人の代襲者などに相続させるという意思を遺言者がもっていたと見なすべき事情がない限り、遺言の効力は失効してしまいます。

4-2. 相続税の特例を活用した生前対策

相続財産にかかる相続税を低く抑えるための生前対策として、相続税を減らすために利用できる各種特例を活用することが考えられます。

4-2-1. 配偶者の税額軽減の活用

これは、配偶者だけが利用できる制度です。配偶者が遺産分割や遺贈により取得した遺産額から、配偶者の法定相続分相当額か1億6,000万円のいずれか大きい方の金額を差し引いて、残った金額にのみ課税するという制度です。差し引く金額のほうが大きい場合には、課税されません。よく「配偶者居住権」と言われています。

配偶者居住権とは?

「配偶者居住権」とは簡単にいうと「残された配偶者の老後を守る」「住み慣れた自宅と老後の資金の両方を確保する」という目的のもと、残された配偶者が「夫婦で住んでいた自宅に、そのまま死ぬまで無償で住み続けることができる」権利のことです。

4-2-2. 生命保険の活用

生命保険は、特定の人に保険をかけて、その人が亡くなったときなどに指定された受取人が保険金を受け取れる仕組みです。

たとえば、生命保険を契約した方と被保険者とが同一人物である場合、被保険者が亡くなると相続税がかかるのですが、保険金の受取人が被相続人である場合には、残された家族の生活保障のために死亡保険金が非課税になります。死亡保険金の非課税枠は

500万円 × 法定相続人の数

となっています。

たとえば、被相続人が相続人の配偶者と子ども1人である場合には、最大で1,000万円まで死亡保険金に相続税はかかりません。

4-2-3. 小規模宅地等の特例の活用

小規模宅地等の特例とは、たとえば自宅の土地であれば、評価額が330平方メートルまで8割減額される制度です。小規模宅地の特例を活用するためには、いくつかの要件があります。

自宅の土地であれば配偶者が相続する場合は無条件に適用されますが、配偶者以外の相続人が相続する場合にはいくつかの要件を満たさなければいけません。「被相続人と同居していたか」「同居していなくても持ち家をもっていないか」などの要件を満たせば、小規模宅地等の特例は適用されます。

4-2-4. 債務控除の活用

相続財産の課税価格を算出する段階で、預貯金や不動産などプラスの財産から借金などのマイナス財産を差し引きます。これが債務控除です。

債務控除できるのは、借入金やローン、未払い金などの債務や、葬式費用です。ただし、墓地や仏具などの購入費用で、生前に購入していたものの未払い金がある場合は、債務控除の対象外になります。

4-3. 生前贈与

生前贈与とは、自分が生きているあいだに自身の財産を子どもや孫など親族に分け与えることです。生前贈与を行う人は贈与者、財産を受け取る人は受贈者と呼ばれ、受贈者は生前贈与を受け取る際に、暦年課税か相続時精算課税のいずれかを選択できます。

暦年課税とは、受贈者が1年間で受け取った財産の合計額が110万円を超えた場合、超過分に対して贈与税が課税される制度のことです。

これに対して相続時精算課税とは、原則として60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子どもや孫に対し、財産を生前贈与した場合に選択できる制度のことです。 相続税精算課税には2,500万円の特別控除があり、限度額に達するまで何回でも控除可能です。

4-3-1. 生前贈与のメリット

生前贈与で相続税を節税するメリットとして、次の2点が挙げられます。

大きな節税効果が見込める

暦年課税で生前贈与を行うと、年間の贈与額が110万円以下ならば贈与税は課税されません。非課税限度額を超えると、超過分に対し超過累進課税で10〜55%かかります。そのため、110万円以下に分けて贈与することで、贈与税が課税されずに相続税の課税対象になる財産を減らせます。
 

財産を自由に贈与できる

生前贈与の場合、いつ誰に何を贈与するかなど贈与の方法を自由に選択できます。そのため、相続時のトラブルを未然に防ぐ対策になります。また、不動産や有価証券など価額が変動するものを渡す場合に、将来値上がりする可能性が高い財産に対して事前に贈与することで節税になる可能性があります。

4-3-2. 生前贈与のデメリット

生前贈与で相続税を節税するデメリットとして、以下の2点が挙げられます。

税務署から否認されるケースがある

生前贈与を税務署に認めてもらうためには対策を講じておかねばなりません。贈与者と受贈者とのあいだで財産贈与の合意があること、贈与契約書を作成すること、書類で贈与したと証明できること、受贈者が贈与された財産を使っていることなどが挙げられます。

たとえば、現金手渡しや名義預金、へそくりなどは税務署に否認されるケースが多いので、注意が必要です。
 

相続時点から3年以前の贈与は相続税の対象

被相続人が亡くなる前3年以内に相続人に対して行われた贈与の財産は、被相続人の相続財産に加算され、相続税が課税されます。これを生前贈与加算と呼びます。 生前贈与で節税効果を得られたと思っていても油断できません。

4-4. 成年後見制度

成年後見制度とは、認知症など判断能力が衰えてしまった方に対して、財産管理や身上保護などで支援する制度です。成年後見制度により、被後見人の財産を不当な契約などから守ることが可能です。

成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度とに大別されます。法定後見制度は、すでに判断能力が低下した人に対して、家庭裁判所が選任した法定後見人が被後見人を財産管理や身上保護で支援する制度です。

これに対して、任意後見制度は、将来判断能力が低下するリスクに備えて、被後見人を支援する任意後見人を選び、どのように支援するかを任意後見契約として記す制度です。

4-4-1. 成年後見制度のメリット

成年後見制度のメリットとしては、次の点が挙げられます。

すでに判断能力が低下してしまった方の財産も管理できる

成年後見制度のメリットとして、すでに判断能力が低下してしまった方に対してでも、財産を管理できることが挙げられます。後述する家族信託の場合、財産を所有する委託者の判断能力が低下してしまうと、受託者とのあいだで家族信託の契約を結べません。

判断能力が低下してしまった方が法定後見制度を利用する場合、判断能力の程度に応じて、「補助」「保佐」「後見」のいずれかの制度を利用することになります。家庭裁判所に成年後見制度を利用するための申立を行い、家庭裁判所が診断書などをもとに被後見人の判断能力の程度を判断します。

4-4-2. 成年後見制度のデメリット

成年後見制度のデメリットとして、次の2点が挙げられます。

手続きに手間とお金がかかる

法定後見制度を利用する場合、家庭裁判所に申立する必要がありますが、申立手数料や後見登記手数料など出費がかさみます。診断書や戸籍謄本など申立に必要な書類も多く、手間とお金がかかってしまいます。

任意後見制度を利用する場合でも、後見人と被後見人とのあいだで任意後見契約を結ぶ必要があり、公正証書を作成しないといけないため、手続きが煩雑です。これに加えて、後見制度を開始すると、後見人の基本報酬が月額2万円程度、管理財産額によっては平均月額3~6万円の費用が発生します。
 

途中で中断することができない

一旦、成年後見制度を利用すると、被後見人が亡くなるまで契約を途中でやめることはできません。そのため、契約が終わるまで成年後見人や後見監督人に報酬を支払う必要があり、期間が長いほど費用負担が大きくなるでしょう。

4-5. 家族信託

家族信託とは、自分で財産を管理できなくなったときに備えて、自分の財産の管理や処分する権限を家族に与えることを指します。財産を所有する委託者が信託契約によって受託者に財産の管理や処分する権限を与え、委託者の財産を受益者が得るというのが、家族信託の仕組みです。

親などの判断能力が低下すると、預金口座が凍結されて引き出されなかったり、実家など不動産を売却できなかったりなど、資産が凍結されるリスクがあります。こうしたリスクに備える対策方法が家族信託だといえます。

4-5-1. 家族信託のメリット

家族信託のメリットとして、以下の2点が挙げられます。

委託者の思い通りに財産承継できる

家族信託では、親族の誰を受益者にして、財産を承継させるのかを自由に決めることができます。遺言と違って、2世代・3世代先の相続まで委託者が決定できます

また、受益者がさらにどのように財産を相続するのかについてまで、家族信託で決められます。たとえば、妻が受益者の場合、妻が亡くなったときに子を受益者にするという信託契約を結べば、実質妻の相続についても決定できることになります。
 

財産を管理してほしい人に管理してもらうことができる

不動産や預貯金、会社など、あらゆる財産を管理してもらいたい人ごとに管理させることも可能です。たとえば、次男に会社を承継し、長男に残りの財産を管理してもらうことも可能です。また、受け継がれた財産の使い道も原則、自由に決めることができます。

4-5-2. 家族信託のデメリット

家族信託のデメリットとして、以下の2点が挙げられます。

判断能力が無い方は家族信託を利用することができない

家族信託では、認知症など判断能力がない方は信託契約を結ぶことができません。信託契約は、契約当事者が内容や法的効果を理解していないと、有効に締結できないためです。 ただし、物忘れ程度の軽症である場合には、家族信託の契約内容を理解できていると確認されれば、契約を締結できるケースもあります。いずれにせよ、認知症が発症する前に、しっかりと対策する必要があります。
 

成年後見制度にはできて、家族信託にはできないことがある

家族信託も成年後見制度も、判断能力の低下に備えて家族などに財産管理を委ねることができる制度です。成年後見制度では、介護施設や病院などへの入所手続きといった身上保護を後見人に支援してもらうことが可能です。ところが、家族信託で家族に託すことができるのは財産管理や処分だけです。

4-6. 家族会議

ここで、生前対策において最も大切なことについて解説致します。それはつまり“家族会議”です。

相続の生前対策は様々ありますが、家族会議は最も重要な対策のうちの1つです。家族間の争いの原因で最も多い事例は、遺産を巡る争いです。現所有者が存命のうちに家族会議を行ない、遺族や相続人の全員が納得する結論を出すことができれば、余計な争いを回避することができます。

では、家族会議では一体何を協議すれば良いのか? 数ある議題の中でも特に重要な議題3つをご紹介します。

4-6-1. 現状把握と情報共有

被相続人が所有する財産の収支状況を知り、それをしっかりと把握し、相続人全員がその情報を共有することが非常に重要です。

例えば、被相続人の持つ財産が預貯金や現金のようなプラスの財産ばかりとは限りません。負債を抱えている可能性もあります。事前にその収支と金額を調べ、相続人同士がその扱いについて話し合いをしておけば、遺産相続時の争いを未然に防ぐことができます。

4-6-2. 介護について

家族会議は、被相続人の死後に備えるためのものとは限りません。被相続人が病気により要支援・要介護の状態となった場合、家族の対応や介護サービスの利用等、被相続人の生活についても話し合う必要があります。

誰が、どこでどのように面倒を見るのか、介護施設に移り住むのであればその資金をどうするのか、居住していた自宅はどうするか、などについて家族会議で話し合い決定しなければなりません。

もちろんその決定は、介護される本人の意思や希望も反映されたものでなくてはならないため、時間をかけた話し合いが必要不可欠です。

4-6-3. 家族信託・財産管理委任契約

例えば、ご自身が投資用の不動産を所有している場合、信託の制度を利用して家族である配偶者や子どもに不動産管理の権限を渡す契約を交わすことができます。これを家族信託と言います。

この時、不動産の所有権移転登記が必要になるなど、煩雑な手続きが必要になりますが、信頼できる家族に管理を信託できるメリットは計り知れません。

また、財産を所有する者の判断能力が減退してしまった場合、財産管理委任契約を利用することができます。これは、判断能力が著しく減退した本人の代わりに信頼できる家族や第三者が、財産を管理する権利を引き継ぎ、財産管理や生活の事務を行なうというものです。

成年後見人制度と似ていますが、事前に信頼できる契約者を指定することができるという点で、大きな違いがあります。

4-6-4. 相続税の節税対策

相続の生前対策において最も重要な対策のうちの1つとして家族会議についてお話ししましたが、家族会議の議題の中も相続税の節税対策は、重要項目の1つです。

負担が大きいとされる相続税、遺族や相続人であれば、少しでもその負担を軽くしたいと考えるのは当然です。では、どうすれば相続税の負担を軽くすることができるのでしょうか。 ここでは、代表的なものをご紹介します。

① 生前贈与で相続財産を減らす

生前贈与とは、前述の通り、自分が生きているあいだに自身の財産を子どもや孫など親族に分け与えることです。当事者同士が贈与契約を交わすことで成立します。 相続税は、相続開始後の相続財産が課税対象となるため、相続財産を減らすことで節税が可能となります。例えば、結婚を控えている子や孫を受贈者として財産を贈与すれば、その意義は節税以上に大きなものとなるでしょう。ただし、注意すべきは贈与税です。財産を無償で贈与しても贈与税がかかってしまいます。そこで、暦年贈与を利用します。贈与税には110万円の基礎控除があるので、毎年110万円ずつ贈与すれば非課税にすることができます。つまり、相続税対策が早ければ早いほど、有利に対策を進めることができます。
 

② 生命保険等の非課税枠を利用

生命保険についても前述している通り、被相続人の死亡後に支払われる生命保険金には非課税枠があります。生命保険金が3000万円支払われたとすれば、【3000万円−500万円×法定相続人の数】が非課税枠です。法定相続人が3人いれば1500万円が非課税枠となり、残りの1500万円に相続税が課税されることになります。つまり、生命保険金が少なければ、また法定相続人が多ければ、それだけ税負担を減らすことができます。
 

③ 墓地や仏具を生前に購入する

被相続人の死亡、葬儀後、必ず必要になるのが墓地です。 先祖代々のお墓に入るのであれば、高額な費用の必要はありませんが、新たに墓地を購入または契約する場合、それなりに高額な費用な発生します。墓地や墓跡、仏壇仏具には相続税は課税されないため、生前にそれらを購入しておくことで、相続財産が減り、相続税の負担を軽くすることができます。
 

④ 相続時精算課税制度の利用

贈与税の特別控除に1つに相続時精算課税制度があります。これは生前贈与で2500万円までなら贈与税がかからないという制度です。特例であるため計算式は少し複雑で、【(課税価格−特別控除額)×税率】となります。

5. 相続の生前対策に関する相談先

以上、相続の生前対策について解説してきましたが、このように相続の生前対策だけでなく、相続には様々な法的知識が必要となってきます。どの法を適用するか、また法の改正などもあるので、専門家以外の方が独自で随時調べるのは非常に困難といえます。

被相続人自身が法律の専門家でない限り、相続の相談は専門家に相談すべきと言えるでしょう。法律について、また税金についても知識豊富な弁護士への相談をおすすめ致します。

相続の生前対策は、数十年にもわたる人生の終焉を迎える前の最後の大仕事といえます。 中には病気や怪我、不慮の事故により、遺族に何ら意思を伝えることができずに死を迎えてしまう方も大勢いらっしゃいます。家族や親族のために、そして何よりご自身のために、相続の生前対策の実施をご検討ください。

当事務所は、相続対策についての知識・経験が非常に豊富なスタッフが在籍しております。相続について、生前対策について、具体的な流れについて説明致します。お悩みの方は、ぜひ一度、当事務所までご相談ください。

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