本ページでは、債務整理の中でも、法人破産に関してよく寄せられるご質問とその回答をまとめました。皆様が御相談をされるに当たり、少しでも参考になれば幸いです。
目次
- 法人破産をした場合、会社の借金はどうなりますか?
- 法人破産をすると、二度と会社を設立することはできないのですか?
- 従業員は解雇しておいた方がいいですか?
- 法人破産すると、税金はどうなるのですか?
- 法人が破産すると債務はすべてなくなりますか?
- 法人破産にも免責不許可事由はありますか?
- 法人の破産と個人の破産とで、債権者の対応に違いがありますか?
- 法人が破産すると、連帯保証人はどうなりますか?
- 法人が破産すると、借りていた事務所や倉庫はどうしたらよいですか?
- 法人破産にも少額管財はありますか?
- 法人破産と代表者の自己破産を同時にする場合、注意することはありますか?
- 法人の同時廃止はできるのでしょうか?
- 破産を考えていますが、すでに一部従業員の支払いが未払いとなってしまっています。近々、売掛金が回収できる予定があるため、それで未払い給与を支払ってもいいでしょうか?
- 神奈川県内の会社社長をしていますが、東京都に住んでいます。会社と私個人の破産申立をすることになったのですが、私個人の破産申立も横浜地方裁判所に行うことが可能でしょうか?
- 神奈川県内で学習塾を経営しているのですが、横浜地方裁判所に破産申立を行うことになりました。私の借金の連帯保証人として、北海道に住んでいる姉も破産申立をすることになったのですが、姉の申立も横浜地方裁判所で申し立てたほうがよいでしょうか?
- 私は川崎市内で個人で花屋を営んでおり、従業員を5名雇っています。今回、破産申立をすることになったのですが、従業員の未払い給料、退職手当について、どうしたらいいでしょうか?
- 裁判所に会社の破産申立をしたのですが、リース中のコピー機や残ローン有りの社用車を今後も使用することはできるでしょうか?
- 私は神奈川県内で小さい町工場を経営していますが、倒産を考えています。倒産すると仕入先に迷惑をかけてしまうので、仕入先だけに支払いを済ませてから破産申立したいと思っておりますが、大丈夫でしょうか?
- 私は川崎市内で会社を経営しているのですが、費用が無いので、代表者である私個人だけ破産するということは可能でしょうか?
- 建設業を営んでいるのですが、経営状態が悪化しているため、破産を考えています。工事途中で破産してしまった場合、工事途中のものはどうなるでしょうか?
- 私の父が会社を経営していたのですが、業績が悪化したため破産を決意しました。しかし、破産の手続きに入る前に父が急死してしまいました。この場合、破産の手続きはどのようにしたら良いでしょうか?
- 破産開始後に手伝いをした従業員に対する報酬の支払いはどうなりなますか?
- 会社を複数経営しているのですが、その中の1社が破産した場合、他の会社にも影響が出るでしょうか?
- 会社を破産させたいが、法人税や社会保険料を滞納しており督促状が届いている場合、どうすればよいでしょうか?
Q1.
法人破産をした場合、会社の借金はどうなりますか?
A1. 会社の借金は消滅します。
会社が破産手続きをした場合、手続きの終結をもってその会社は消滅することになります。債務者である会社自体が消滅するため、その借金も消滅します。代表者に引き継がれるという事はありません。
Q2.
法人破産をすると、二度と会社を設立することはできないのですか?
A2. 設立可能です。
現在の法律では、一度破産手続きをとった人も、会社の取締役となることができます。
Q3.
従業員は解雇しておいた方がいいですか?
A3. 可能な限り早い段階で、解雇対応した方が良いかと思います。
会社が何もしなかった場合、破産手続の申立後に、破産管財人が従業員を解雇することになります。これまで一緒に会社を支えてきた従業員のことを考えるのであれば、管財人から話しをきくよりも、共に働いてきた代表者から可能な限り早い段階で対応した方が良いのでは、と思います。
また、未払賃金立替払制度もありますので、未払給与がある場合には、そちらを検討していただくこともできます。
Q4.
法人破産すると、税金はどうなるのですか?
A4. 税金の支払義務も、全てなくなります。
法人破産の場合には、税金の支払義務もなくなります。破産手続きの終結によって法人自体が消滅し、税金を支払う主体そのものがなくなるからです。どれだけ多額の滞納税金であっても、すべて支払う必要がなくなります。
Q5.
法人が破産すると債務はすべてなくなりますか?
A5. なくなります。
法人が破産すると法人自体が消滅します。ですから、税金や社会保険料も含め、債務はすべて消滅します。
法人と個人は別人格ですので、代表者が法人の納税義務を負うこともありません(個人の破産の場合は、税金は免責となりませんので、破産手続後も市役所等で相談の上、お支払いいただくことになりますのでご注意ください)。
Q6.
法人破産にも免責不許可事由はありますか?
A6. ありません。
法人破産は、個人の場合とは異なり、法人は消滅してしまうため、免責をするという概念はありません。したがって、免責不許可事由や非免責債権もありません。
Q7.
法人の破産と個人の破産とで、債権者の対応に違いがありますか?
A7. 個人の場合より、法人の場合は特に機密性・慎重性や迅速性が必要になります。
法人の場合は、債権者が銀行などの金融機関以外に仕入先(買掛先)や場合によっては得意先(売掛先)も含まれることがあります。受任通知を送付するといろいろなところに伝わり、取付騒ぎになったり、店舗の商品や事務所の機械を持ち出されたりという問題を起こす恐れがあります。
したがって、法人破産の場合は、秘密裏にし、また、いろいろな場面を想定し、準備を進める必要があります。そのため、破産手続に精通した弁護士に委任することが重要といえます。
Q8.
法人が破産すると、連帯保証人はどうなりますか?
A8. 連帯保証人は、会社に代わって債務を返済する義務があります。
法人の代表者は法人の連帯保証人になっている場合がほとんどです。法人が破産して返済できなくなれば、連帯保証人に請求がきます。そうなると、代表者も自己破産を考えなければならない場合が多いです。
しかしながら事案によりますし、交渉次第で他の方法があるかもしれませんので、弁護士にご相談ください。
Q9.
法人が破産すると、借りていた事務所や倉庫はどうしたらよいですか?
A9. 賃貸借契約を解約して、賃貸人に明け渡しをすることとなります。
事務所や店舗、倉庫及び資材置き場等、法人は事業のために様々なところを賃貸借しています。少しでも財産を確保するため賃貸借契約を解約し、保証金を返還してもらいます。
返還された保証金は、すみやかに申立代理人の預り金口座にて保管してもらい、破産手続開始後に破産管財人に引き継ぐようにしてもらいましょう。また、資材置き場に産業廃棄物がある場合は、その状態を相談の際に説明していただく必要があります。
その他、自動車やコピー機等のリース物件は、返還する必要がありますし、会社の商品や機械等も破産管財人によって売却して換価するため、保全する必要があります。勝手に処分してはいけません。
Q10.
法人破産にも少額管財はありますか?
A10. あります。
破産の少額管財事件は、破産申立の裁判所への予納金が通常管財事件より低くなる場合があります。例えば、管財人が売却処分する資産もないペーパーカンパニーの場合等です。予納金の額は事案によって変わり、裁判所が決定します。
Q11.
法人破産と代表者の自己破産を同時にする場合、注意することはありますか?
A11. 法人と代表者個人の、両者間のお金の流れに注意してください。
小規模法人や個人経営の法人は、往々にして法人と代表者間のお金の流れが混同しがちになります。個人のお金を法人へ回すことはありうるケースですが、その逆、法人のお金を個人へ回す場合はあまり好ましいことにはならない場合がありますので、お気を付け下さい。
Q12.
法人の同時廃止はできるのでしょうか?
A12. 多くの裁判所では、認められていません。
現在、日本の多くの裁判所において、法人については同時廃止を認めない運用をしています。
Q13.
現在、会社を経営しておりますが、資金繰りが良くないため、破産を考えています。
すでに一部従業員の支払いが未払いとなってしまっています。近々、売掛金が回収できる予定があるため、それで未払い給与を支払ってもいいでしょうか?
A13. 支払っても問題ない場合もあります。
借入金や買掛金といった一般の破産債権(優先権のない債権)は支払えないけれども、優先権のある破産債権は全て支払うことができ、破産のために裁判所に納める予納金その他の費用も賄うことができるのであれば、労働債権を支払っても問題がない場合もあります。
給料の支払いは、労働者にとっては生活の糧になるものであり、蓄えのない労働者にとっては死活問題になることもあります。
他方で、破産法では、優先的に支払われる債権として、財団債権、優先的破産債権というものがあります。破産手続開始前3か月の労働債権(給料の支払請求権)は、財団債権とされ、優先的に配当されることが認められています。しかし、財産債権として他にも税金・社会保険料や破産手続のための費用など、同様に優先して支払われる債権があります。
破産手続は、破産法の規定に基づき、債権者を原則として平等に扱う必要があります。そのため、借入金や買掛金といった一般の破産債権(優先権のない債権)は支払えないけれども、優先権のある破産債権は全て支払うことができ、破産のために裁判所に納める予納金その他の費用も賄うことができるのであれば、労働債権を支払っても問題がない場合もあります。
しかしながら、裁判所に納める予納金その他の費用を賄うことができない場合には、破産手続が開始できず、本末転倒な結果となってしまうことがありますので、債権の額、財産の額、破産開始後に換価・処分できる財産の有無や種類をよく検討して、場合によっては裁判所に事前相談するといいでしょう。
なお、未払いの給料に関しては、資料等があれば、一定の範囲で労働者健康安全機構(旧 労働者健康福祉機構)の立替払制度を利用できる場合があります(ある程度時間はかかります)ので、それによって支払える場合もあります。
Q14.
私は神奈川県内にある○○株式会社の社長をしていますが、東京都に住んでいます。
会社の経営状態が良くないため、会社と私個人の破産申立をすることになったのですが、私個人の破産申立も横浜地方裁判所に行うことが可能でしょうか?
A14. 横浜地裁で、法人とその代表者を同時に破産申し立てをするのが適当といえるでしょう。
破産の開始決定を申立てる先の裁判所は、個人であれば原則として住所地を管轄する裁判所となり、会社であれば原則として主たる営業所のある場所を管轄する裁判所となります。
「主たる営業所」は、通常は会社の本店所在地を指しますが、本店を移転しているのにもかかわらず登記を移転していない場合や、本店はあるが形骸化していて実際には営業していないような場合には、実際に主な業務を行っていた場所を指します。
また、会社の代表者の場合、その会社の借金を連帯保証していて、会社の経営状態が悪くなり、破産をせざるを得ないような場合には、会社の代表者も一緒に破産する必要があるような場合も多いと思われます。破産法では、一定の関係にある当事者の一方が、ある裁判所で破産手続を申し立てる場合に、関連のある当事者も、本来であれば管轄のない場合であっても、破産申立ができる場合があります。
法人とその代表者は、一定の関連があり、同じ裁判所で破産手続を進めた方が妥当だということで、同じ裁判所に破産手続開始の申し立てをすることができます(破産法5条6項)。
今回、会社は神奈川県内にあり、代表者の住所は東京都にあるのでしたら、法人とその代表者を同時に横浜地裁で破産申し立てをするのが適当といえるでしょう。
Q15.
私は神奈川県内で学習塾を経営しているのですが、経営が思わしくないため、横浜地方裁判所に破産申立を行うことになりました。
私の借金の連帯保証人として、北海道に住んでいる姉も破産申立をすることになったのですが、姉の申立も横浜地方裁判所で申し立てたほうがよいでしょうか?
A15. 横浜地方裁判所でも、北海道の裁判所でも、一緒に破産の申し立てができると考えられます。
破産の開始決定を申立てる先の裁判所は、個人であれば原則として住所地を管轄する裁判所となります。また、破産法では、一定の関係にある当事者の一方が、ある裁判所で破産手続を申し立てる場合に、関連のある当事者も、本来であれば管轄のない場合であっても、破産申立ができる場合があります。
借金の主債務者とその連帯保証人の場合、破産することになった原因は同一だと考えられますので、破産法でも同じ裁判所で破産の手続をすることが認められています(破産法5条7項2号)。
そのため、今回、借金の主債務者と連帯保証人という関係でしたら、横浜地方裁判所でも、北海道の裁判所でも、一緒に破産の申し立てができると考えられます。
ただし、例えばお互いに不動産を持っている場合など、その地の管財人の方が換価・処分しやすい財産を有している場合も考えられます。遠方の管財人だと処分しにくく、時間がかかりそうな場合には、敢えて別々に破産を申し立てることも検討の余地があるように思われます。
Q16.
私は川崎市内で個人で花屋を営んでおり、従業員を5名雇っています。
今回、破産申立をすることになったのですが、従業員の未払い給料、退職手当について、どうしたらいいでしょうか?
A16. 従業員の給料・退職金の未払いがある場合には、一定の注意が必要です。
破産をするにあたり、従業員の給料・退職金の未払いがある場合には一定の注意が必要です。
まず、給料は、破産手続開始前3か月間の部分は財産債権という優先的に支払われる債権となります。退職金も、破産手続終了前に退職した従業員の退職金は、退職前3か月分の給料の総額までは財団債権とされます。これ以外の給料・退職金は、優先的な破産債権という扱いになります。
とはいっても、破産する必要がある場合には、ほとんど財産が残っていない場合が考えられます。そのような場合には、労働者健康安全機構という組織が、一定の範囲で未払いの給料・退職金を立て替え払いしてくれることがあります。そのため、こういった手続きが使える場合には、できる限り使った方がいいでしょう。
なお、会社ではなく個人で従業員を雇っている場合、給料などの労働債権は非免責債権になり、破産しても免責されませんので、注意が必要です。
Q17.
裁判所に会社の破産申立をしたのですが、リース中のコピー機や残ローン有りの社用車を今後も使用することはできるでしょうか?
A17. 通常は、リースしているものは返還する必要があります。ローンのある社用車は、名義が誰にあるかで変わってきます。
コピー機などのリース物件ですが、これはあくまで借りているだけの扱いになります。賃貸借契約は、賃料が支払えなくなれば、通常は解約されますが、所有権は貸主にありますので、返還する必要があります。リース物件を返還すると、そのリース物件の価値分を清算され、残額を請求されることが多いかと思われます。
ただし、リースの契約を第三者が引き継ぐ方法や、リース物件を第三者が買い取る方法で、実質的にリース物件を使い続けられる可能性があります。破産する場合で、どうしてもリース物件を使い続ける必要がある場合には、そのような方法が検討できます。ただし、リース会社が任意に応じることが必要になってきます。
ローンのある社用車ですが、名義が誰にあるかによって変わってきます。自動車には登録制度がありますので、普通自動車か軽自動車かによって違いはありますが、まずは車検証等の使用者欄と所有者欄を確認する必要があります。何らかの理由で所有者欄が会社になっていれば、直ちに返還する必要はありません。
他方で、所有者が販売ディーラーやローン会社の名義になっている場合には、まだ使用者の所有にはなっていないと考えられますので、所有者に返還しなければならない可能性が高いと言えます。
ただし、破産した場合には、会社財産は原則として管財人が換価処分しますので、破産手続開始後はそのまま使い続けることは困難だと考えられます。このような場合には、その自動車を親族が買い取って使わせてもらったり、自身の破産手続開始後の収入で買い取るという方法が考えられます。
Q18.
私は神奈川県内で小さい町工場を経営していますが、倒産を考えています。
倒産すると仕入先に迷惑をかけてしまうので、仕入先だけに支払いを済ませてから破産申立したいと思っておりますが、大丈夫でしょうか?
A18. 一部の仕入れ先にのみ支払いをする場合は、逆に支払先に対して迷惑をかけてしまう可能性もあります。
破産手続は、例外として給料債権等の優先順位がつけられることもありますが、原則として債権者を平等に扱います。リース物件を返還すると、そのリース物件の価値分を清算され、残額を請求されることが多いかと思われます。
そのため、破産をしなければならないような経済状態で、一部の債権者だけに支払うことは、破産手続開始後に、管財人によって、偏頗弁済(へんぱべんさい)として否認される可能性があります。否認された場合には、管財人が、その支払先に対して返還の請求をすることもありますので、逆に支払先に対して迷惑をかけてしまう可能性もあります。
破産を考えていない状態での通常取引であれば、特段の問題はありませんが、支払不能(一般的・継続的に債権者に対して支払えない状態)にもかかわらず一部の債権者・取引先にだけ支払うと、否認されやすくなります。
また、個人事業主として破産するような場合には、一部の債権者にだけ支払うことは、免責不許可事由となっていますので、支払先に迷惑をかける可能性があるだけでなく、免責されない危険性を負うことになることから、注意が必要です。
Q19.
私は川崎市内で会社を経営しているのですが、費用が無いので、代表者である私個人だけ破産するということは可能でしょうか?
A19. 裁判所は法人の破産申立を強く求めていますが、どうしても資金的に問題がある場合は、個人の破産のみ申し立てを行い、法人の破産は申し立てをしない、という選択ができる場合もあります。
1. 代表者の破産申し立て
代表者個人の破産申し立てをする場合、できるだけ法人についても破産申し立てを行うべきと考えられています。
というのも、法人の破産手続をとらないまま、代表者個人について破産手続き開始決定が出されると、法人と代表者との委任関係が終了する(民法653条2項)ため、当該法人は代表者が不在となってしまいます。そうすると、事実上清算が困難になりますし、債権者にとっても、税務上の損金処理できなくなり、不利益な状態に置かれるからです。
また、代表者個人の財産との区別がなされていなかったり、代表者が法人に対し貸付金や仮払金等の債権を有していることも、一般的に多くみられます。このような場合、法人の財産調査がなされなければ、代表者の財産状況も正確に把握できない恐れがあります。
このように、債権者にとっての利益・公平性の確保、財産調査の透明性の確保という観点から、多くの裁判所では、代表者の破産申し立てをする場合には、可能な限り法人の破産申し立てを行うよう、代表者に要請しています。
2. 法人の破産申し立てを行わない場合
とはいえ、資金等の事情から、法人について破産申立てをしないという選択をすることもあります。その場合、代表者個人の破産事件は、管財事件となることが一般的です。財産調査の必要性が高いためです。
裁判所では、同時廃止や少額管財など、予納金が低額に抑えられる手続を利用することができる場合があります。しかし、そのためには、破産管財人による調査に代えて申立人において十分に、客観的資料に基づいた調査を行っておかなければなりません。
そのため、会社の帳簿等、十分に資料を整える必要があります。実際には、利用できる場面は相当限られています。また、法人の破産申し立てをしない理由を、裁判所だけでなく債権者が納得できるよう、詳しく追及されます。
3. まとめ
裁判所は、法人の破産申立を強く求めています。しかし、どうしても資金的に問題がある場合もあり、必ずしも法人の破産を申し立てることができるわけではありません。
資金的に問題がある場合には、予納金の調整や調査の実施により、資金が乏しい状況でもなんとか破産できるよう、裁判所と交渉することになります。結果として、やむを得ず代表者だけが破産となる場合もありますが、上記のような努力が必要です。
Q20.
建設業を営んでいるのですが、経営状態が悪化しているため、破産を考えています。
工事途中で破産してしまった場合、工事途中のものはどうなるでしょうか?
A20. 請負契約を解除し、出来高部分と工事代金の既払額との差額を清算するのが一般的です。
1. 請負契約と破産
建築請負人(いわゆる「一人親方」)などの個人事業主に対する業務委託契約は、多くの場合、請負契約という形をとっています。請負人が破産した場合、仕掛中の工事がどうなるか、という点が最も関心のある点と考えられます。
破産法上は、破産開始決定時に履行が完了していないときは
- ① 請負人の破産管財人は契約を解除する
- ② 破産者の債務を履行して注文者に請負代金を請求する
のいずれかを選択することになります。この判断は、裁判所の選任する破産管財人が行います。①のように請負契約を解除した場合、実務的には、出来高部分と工事代金の既払額との差額を清算するのが一般的です。
2. 仕掛中の工事の掌握
このように、破産開始決定時における出来高部分というのが、請負人の破産において重要となります。申立人において掌握すべき事項として、以下のような点があります。
(1)工事内容の掌握
まずは契約内容を掌握することが必要です。具体的には、契約の相手方、工事名、工事の内容、工事場所、工事金額、支払条件、既払金などの点を、請負人からの聞き取りだけでなく、契約書、設計図等の書類や関係者からの事情聴取によって掌握します。
(2)工事の出来高等の掌握
前述のとおり、仕掛中の工事につき、出来高を掌握しなければなりません。これは、注文者が他の業者に発注して工事を続行し、破産管財人は工事の出来高を請求することになるためです。正確に掌握することは実際は難しいと言えます。請負人からの聴取だけでなく、工事日報や出来高調書等の文書、下請業者や資材業者からの請求書、仕入済み・使用済みの材料の金額、担当者からの事情聴取等により掌握を試みます。
(3)前受金
管財人が請負契約を解除する場合、注文者は前受け金から工事出来高分を控除した残高を、財団債権として返還請求することができます。
3. 仕掛中の工事の保全
請負人が破産しようとする場合、債権者が現場に押し掛け、資材や工具、仕掛品まで持ち去ってしまうことがあります。そのため、工事の保全やガードマンの手配、高価品の移動などの処置を講じる必要があります。場合によっては、警察に協力を求めることもあります。
4. 工事続行の是非
請負人が破産しようとする場合、密行的に行いたいという思いから、従前どおり工事を受注し、下請けに指示し、続行しようとすることがあります。しかし、新たな債務を発生させるような行動は避けなければなりませんから、工事の続行はごく例外的な場合に限られます。例えば、破産管財人が工事の続行を選択すると予想される場合などです。
Q21.
私の父が会社を経営していたのですが、業績が悪化したため破産を決意しました。しかし、破産の手続きに入る前に父が急死してしまいました。
この場合、破産の手続きはどのようにしたら良いでしょうか?
A21. 相続の問題となり、相続放棄を検討することになります。
破産手続の申立前に債務者が死亡した場合は、専ら相続の問題となり、相続放棄を検討することになります。これに対し、破産手続の申立後に債務者が死亡する場合、いったん裁判所が関与している以上、破産法が適用されます。現行法では、破産者(債務者)の死亡について破産手続開始の前後に分けて規律されています。
1. 破産手続開始前の死亡
破産法226条1項によれば、相続債権者、受遺者、相続人、又は相続財産の管理人等は、当該相続財産について、その破産手続の続行の申立てをすることができるとされています。また、同条2項によれば、この申立ては相続が開始した後1か月以内にすることとされています。
裁判所は、理由があると認めた場合、破産手続を相続財産について続行する旨決定をすることになります。
以上のような続行の可能性が確定的に消滅した時点で、破産手続は、当然に終了します。裁判等を経ることもありません。これに伴い、免責手続も当然に終了するものとされています。したがって、免責許可決定もなされないことになります。そのため、相続人としては、負債を承継してしまわないよう、相続放棄や限定承認を検討する必要があります。
2. 破産手続開始後の死亡
破産手続においては、破産申立後に相続が発生した場合も、開始決定時の財産が破産財団となるとされています。開始決定から相続までの間に時間があるため、破産財団が、最終的な相続財産の範囲と一致しない可能性があります。開始決定後に新たに現れた債権者は、開始決定後の財産を引き当てにすることができることになります。
破産手続が続行される場合でも、免責手続は当然に終了することとされています。そうすると、破産により相続財産の換価・配当が済んだとしても、相続人は免責されないまま債務を相続する可能性があることになります。相続人としては、相続放棄や限定承認の手続をとることを検討しなければなりません。
Q22.
破産開始後に手伝いをした従業員に対する報酬の支払いはどうなりなますか?
A22. 日当が支払われることがあります。
法人破産の開始決定後であっても、取引先への対応や、特殊な手続をする場合、 仕掛品が完成目前である場合など、必要に応じて一部の業務を従業員の方々にお願いする場合があります。
通常は、破産手続開始決定前に従業員は一旦解雇する のですが、破産管財人が補助者として従業員を改めて雇用することで、再び業務に関与することができるようにします。この場合、補助者には日当が支払われることがあります。
ただし、業務を継続するために必要となる場合のやむを得ない措置と言えますので、常に従業員が破産管財人に雇用されるわけではないため、注意が必要です。
Q23.
会社を複数経営しているのですが、その中の1社が破産した場合、他の会社にも影響が出るでしょうか?
A23. 会社が破産しても、直接には別会社には影響がありません。
代表者が会社を破産させる場合、別に経営する会社に対する影響はどのようなものがあるのでしょうか。
会社が破産しても、直接には別会社には影響がありません。
問題は、代表者が会社の債務を連帯保証しているために、代表者も破産を選択する場合です。会社法は、破産することを取締役の欠格事由としていませんが、民法では、破産手続開始決定を受けると委任契約が終了してしまいます。そうすると、会社と取締役の間の委任関係もすべて終了してしまうため、別に経営する会社において取締役の地位を喪失します。そのため、別に経営する会社との関係では再度取締役の選任手続が必要となります。
さらに問題となるのは、代表者兼株主である場合には、株式を換価・配当される可能性があります。支配権を失ってしまうため、再度取締役に選任することができるか危うくなる可能性も出てきます。
Q24.
会社を破産させたいが、法人税や社会保険料を滞納しており督促状が届いている場合、どうすればよいでしょうか?
A24. 税務署等から督促状が届いた場合、速やかに対応する必要があります。
破産申立のためにはまとまった現金を確保しておく必要がありますが、差押えを受けてしまうと、申立費用を確保することができません。そこで、税務署等から督促状が届いた場合、速やかに対応する必要があります。
具体的には、税務署等に支払いの猶予や分割払いの申し入れをする等、滞納処分を受けないよう根回しをすることが公租公課を滞納した場合、滞納処分をすることができます。これは、一般の債権者のように裁判手続を経ることなく強制執行をすることができるものです。そのため、会社財産の差押えを受ける可能性が考えられます。
並行して、差押えを受けやすい財産である預金や売掛金を速やかに現金化し、差押えを回避します。十分な申立費用が確保できたら、速やかに破産申立てを行います。破産開始決定後は、差押えはできなくなります。
申立をするにも一定の準備時間を要しますので、このような判断は迅速に行う必要があります。