入院・通院中の方が知っておくべきこと ー 保険の種類と「症状固定」、治療の打ち切りについて

入院・通院中の方が知っておくべきこと ー 保険の種類と「症状固定」、治療の打ち切りについて

交通事故で怪我を負ってしまった方は、すぐに治療を行うために通院もしくは入院をしていることと思います。その際選択できる、自由診療や保険診療とは、どのようなものなのでしょうか。

また、怪我の治療中、保険会社から治療費の打ち切りの打診を受けた、といった方も多くいらっしゃることと思います。その時に気をつけるべきことについても、本ページでは解説します。

1. 入院・通院中の方が知っておくべきこと

交通事故による怪我は、すぐに治療を開始することが非常に重要です。通院を継続させることによって、後遺障害が残る確率が低くなります。

1-1. 通院先

交通事故治療を行う場合は、以下のような3つの通院先があります。

① 整形外科

整形外科では、医師免許を持つ医師が治療を行います。そのため、MRIやレントゲンによる検査、鎮痛剤や湿布といった薬の処方などを行うことが可能です。また、被害者が加害者に損害賠償を請求する際に必要な診断書を発行してもらうことができます。診断書は、医師でなければ作成することができないため、必ず病院や整形外科で診断書を取得しましょう。

② 整骨院

整骨院では、柔道整復の国家資格を持つ柔道整復師が施術を行います。柔道整復師とは、捻挫や骨折などの骨や筋肉の外傷を、手術や薬といった手段を使うことなく、症状の回復に導く専門家です。主に、手技療法や固定法、電気療法、牽引等の施術を行います。

③ 鍼灸院

鍼灸院では、鍼師や灸師の国家資格を持った人が施術を行います。鍼とお灸で得られる効果としては、「血流を促進させること」「自律神経を整えること」です。そのため、首の痛みや凝り、めまいや手足のしびれ、倦怠感などを緩和させる効果があります。

1-2. 保険の種類と自由診療・保険診療

交通事故の治療を受ける際、自由診療保険診療を選択することが可能です。では、自由診療や保険診療とは、どのようなものなのでしょうか。

自由診療の場合、診療報酬は医療機関が自由に設定することができ、治療にかかった費用の10割を負担しなければなりません。一方、保険診療の場合、診療報酬が法律で決められており、治療にかかった費用の3割を負担することになります。

交通事故後に医療機関で治療を受ける場合、どの保険を使うかによって、自由診療か保険診療かが決められています。

  • 自賠責保険を使用する場合 → 自由診療
  • 健康保険を使用する場合  → 保険診療
  • 労災保険を使用する場合  → 保険診療

と決まっています。

そのため、例えば、「加害者が任意保険に未加入だった」「被害者にも過失がある」といった場合は健康保険や労災保険を使い、保険診療で治療を受けるようにした方が良いといえます。

加害者が任意保険に未加入だった場合

任意保険は、任意で加入する保険であるため、加害者が必ずしも任意保険に加入しているとは限りません。

もしも加害者が任意保険に未加入だった場合、自賠責保険から損害賠償が支払われることになります。自賠責保険では、支払い上限額が120万円と決まっており、支払い上限額を超えてしまうと、加害者自身で支払わなければなりません。

加害者自身から損害賠償が支払われるためには、加害者に財力がなければ難しく、加害者に万が一財力がなかった場合、被害者は、交通事故の治療費を自己負担しなければなりません。

交通事故の治療費は高額になるケースが多いため、健康保険や労災保険を使用し、保険診療で治療費を3割負担に抑えるのが賢明な判断と言えます。

被害者にも過失がある場合

被害者にも過失がある場合、過失相殺されてしまい、被害者が受け取れる損害賠償が減額されてしまいます。損害賠償が減額となってしまい、その金額内で治療費が賄えなかった場合、被害者は治療費を自己負担しなければなりません。

このように過失相殺されてしまう場合も、健康保険や労災保険を使用し、保険診療で治療費を3割負担に抑えた方が良いでしょう。

後で、自由診療から保険診療に変更することはできるの?

このような質問を受けることは非常に多いです。

「交通事故の治療を自由診療で受けていたけれど、保険診療に変更したい」といった場合、後から変更することも可能です。

通院先で、「保険診療に変更したい」旨を伝え、保険診療に変更してもらいましょう。

2. 症状固定と治療の打ち切り

交通事故の怪我の治療中、保険会社から治療費の打ち切りの打診を受けた、といった方は多くいらっしゃることと思います。

交通事故に遭い通院が必要になると、基本的には、加害者側任意保険会社が治療費を支払ってくれます。そのため、少しでも治療費を抑えようと、治療の打ち切りを打診することがあります。

もう一つの理由として、治療の必要性が感じられないと判断した、つまり、保険会社が怪我の状態を「症状固定」であると判断した場合、治療の打ち切りを打診することがあります。

2-1. 「症状固定」とは?

症状固定とは、

「医学上、承認された治療方法をもってしてもその効果が期待し得ない状態で、残存する症状が自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したときの状態」

のことをいいます。

言い換えると、投薬やリハビリを行うことで一時的に症状の回復がみられたとしても、時間が経つと元に戻ってしまうなど、全体的に見て症状の経過が平行線となっている場合、つまり、これ以上治療を続けていても、今以上に症状の改善が望めない状態に達した状態のことをいいます。

保険会社側からすると、これ以上治療を継続しても、回復する見込みがないため、治療費を支払う義務はない、という主張になります。

よって、保険会社から治療費の打ち切りを打診された際の対応のポイントは、実際に症状固定の段階に至っているのかどうかといった点になります。

2-2. 症状固定は誰が判断するのか?

では、症状固定の判断は、誰が行うのでしょうか。

この点については、保険会社が一方的に決めて良いことではなく、基本的には医師の判断が尊重されるというのが原則です。

症状固定は誰が判断するのか

主治医が、事故の内容や身体への衝撃の程度、診断内容、事故直後の状態、現在の状態、回復状況等、様々な判断材料から、今後の回復の見込みについて慎重に判断をします。

その上で、これ以上治療を行っても回復の見込みがないと判断した場合に、症状固定の判断を下すことになります。

よって、治療費の打ち切り、つまり症状固定の時期については、保険会社が一方的に判断できることではありません。本当にまだ治療が必要なのであれば、打ち切りの打診に従う必要はない、ということを、ぜひ覚えておくようにしましょう。

2-3. 治療終了のタイミング

上記したように、そもそも治療の終了を決めるのは保険会社ではなく主治医であるため、主治医がまだ治療が必要だと判断したのであれば、治療は継続すべきであり、その治療費は加害者側が負担すべきなのです。

では、改めて、医師がもう治療は必要ないと判断するのはどのようなときなのでしょうか。

治療終了のタイミング

  • 治癒
    交通事故による怪我が、完治したと判断したタイミング

  • 症状固定
    交通事故による怪我が、これ以上治療を継続しても大幅には改善しないと判断したタイミング

2-4. 治療継続と後遺障害等級認定への影響

保険会社からの治療費打ち切りの打診を受けた際、遠慮してしまい、まだ身体が完全ではないけれど、治療を打ち切ろう。そう思ってしまうのは非常に危険です。後々、後遺障害が残ってしまった場合に、後遺障害等級に認定されない可能性が高くなるからです。

まず、後遺障害等級が認定されるためには、これ以上治療をしても症状が改善する見込みは低い、ということが大切です。

しかし、治療費の打ち切りを理由に短期間で治療を終了してしまうと、後遺障害の存在を証明することができなくなるため、後遺障害等級に認定されにくくなってしまうのです。後遺障害等級が認定されることによって、新たに後遺障害慰謝料、逸失利益を加害者側に請求できるようになり、示談金の金額も大幅にアップします。

だからこそ、後遺障害等級に認定されるためにも、主治医が治療終了と言うまで治療をやりきることは、非常に大切なことなのです。治療費が打ち切られることを理由に、まだ必要な治療を打ち切ってしまうと、様々な面へ影響が出てしまいます。

保険会社からの通告のみを鵜呑みにするのではなく、医師の判断が出るまで、必ず治療を続継続するようにしましょう。

2-5. 治療費の打ち切りを打診された場合

「打ち切りの通告を受けたけど、まだ治療したい・・・。保険会社に治療を継続します!と言える勇気もないし、どうしたら良いのだろう・・・。」

このような悩みを抱えている人は多くいると思います。保険会社から打診された場合の対処方法は、以下の2通りあります。

① まだ治療が必要であることを示す診断書を提出する方法

前述したように、治療の終了時期を判断するのは主治医です。その主治医から、まだ治療が必要だという内容の診断書を作成してもらうのは、非常に有効な方法です。主治医から保険会社へ、直接連絡してもらえる場合もあります。

書面に残してもらう方が無難ということもあるため、診断書も作成してもらうようにしましょう。

② 弁護士に依頼して保険会社と延長交渉してもらう方法

保険会社から打ち切り通告を受けた後も治療を継続しつつ治療費を保険会社に負担してもらうには、弁護士に依頼して延長交渉してもらうのも有効な方法です。

被害者が自力で交渉しても、治療打ち切りを決めた保険会社の判断を覆すことは困難な場合が多いです。被害者が主治医に治療継続の可否を尋ね、治療継続が必要であればその旨の診断書を書いてもらい、その診断書をもとに、弁護士を通して保険会社と延長交渉するのが効果的です。

特に、症状固定がいつ頃になるかを明確に示して交渉することで、1ヵ月ほど打ち切りを待ってもらえることもあります。

以上のような2通りの方法があります。

弁護士に依頼をし、弁護士に介入してもらう方法が治療期間についての交渉もしやすい事から、治療打ち切りの打診を受けた場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。

2-6. 保険会社から治療費打ち切りをされてしまった場合の対応

このように、交渉を行っても、保険会社が治療費の打ち切りをするケースもあり得ます。また、症状固定の時期のめどが立たず、交渉のしようが無い場合は、保険会社の治療費打ち切りの打診を受け入れざるを得ない、といったことも考えられます。

では、実際に治療費を打ち切られてしまった場合、どのような対応をとるべきなのか、以下説明をしていきます。

2-6-1. まだ治療が必要な場合

保険会社から治療費を打ち切られてしまったが、まだ治療が必要である場合、以下の方法で治療費を受け取ることができます。

加害者側の自賠責保険会社に治療費を請求する

任意保険会社に治療費支払いを打ち切られてしまった場合でも、加害者側の自賠責保険会社に治療費を請求することができます。この場合、自賠責損害調査事務所が、本当に治療が引き続き必要なのかを調査したうえで、治療費が支払われる、といった流れになります。

加害者側の任意保険会社・自賠責保険会社の関係について知っておくと、この方法について理解しやすくなります。

任意の自動車保険と自賠責保険の関係

上の図のように、加害者側から被害者に対する損害賠償は、加害者側の任意保険会社と自賠責保険会社とで行われます。必要最低限の金額を自賠責保険会社が支払い、超えた分の金額を任意保険会社が支払うという方法です。

この加害者の自賠責保険に、被害者が直接治療費を請求することができると法律で定められており、任意保険会社から治療費を打ち切られたため、任意保険会社を飛ばして自賠責保険会社に直接請求するということになります。わかりやすく言うと、2つある損害賠償金の支払元のうち、一方の支払元から治療費を拒否されたので、もう一方の支払元に支払いを求める、といった方法になります。

ただし、自賠責保険に治療費を請求するにあたって、注意しなければならない点が2点あります。

1点目は、自賠責保険会社から受け取れる賠償額は120万円までという点です。この120万円には、既に任意の保険会社が支払った金額も含まれるため、それを含めて120万円を超えている場合は、請求できないということになります。

2点目は、請求するに当たり、主治医に診断書や診療報酬明細書をもらい、それらを全て添付しなければならないという点です。その際の費用は被害者自身の負担となることも注意しておく必要があります。

被害者側で治療費を立て替えておき、示談交渉の際に請求する

ひとまず被害者が治療費を立て替えておき、その後の示談交渉で、加害者側に請求する方法もあります。この場合、健康保険が使えます。

ただし、健康保険を利用する場合には以下のような手続きが必要になるので、その手続きを忘れないようにしましょう。

  1. 病院に健康保険を使いたい旨を伝える
  2. 「第三者行為による傷病届」を保険組合に提出する

しかし、示談交渉の結果によっては、治療費を支払ってもらえなかったり、支払いをめぐってさらに示談交渉が長引いたりするといったリスクも高いのがこの方法になります。

2-6-2. 症状固定後の治療費の請求について

保険会社からの治療費支払いが打ち切られると同時に治癒または症状固定し、治療が終了するといったケースもあり得ます。

しかし、症状固定した後にも定期的な通院や治療が必要なケースがあります。症状固定後も定期的にリハビリに通う必要がある、継続的な投薬が必要である等、残った後遺障害の状態の維持や悪化防止のための治療が考えられます。

このような場合には、この治療費を請求できる場合があります。ただし、この治療費を請求するためには

  • 症状固定後も治療が必要な状態が続いていること
  • 逸失利益や後遺傷害慰謝料ではカバーできない損害として認定されること

といった条件が必要となるので、注意しましょう。

3. 弁護士に相談するメリット

交通事故での治療において、保険会社とのやりとりでお困りの際は、ぜひ、保険会社から通院打ち切りの打診が来た時点で、まず私ども弁護士にご相談ください。実際、治療費の打ち切りを保険会社から言われた時に相談に来られる方が非常に多い印象を受けます。

弁護士に相談をするメリットとして、

  • 被害者自身より弁護士が説得した方が相手を説得しやすい
  • 対策を複数提案してもらうことができ、早期に方針を決定することができる
  • 保険会社との交渉も任せることができるため、安心して治療に専念できる

等が考えられます。

弁護士への依頼は早いほうが良いと考えられるため、少しでもお困りの方は、ぜひ、当弁護士法人きさらぎまでご相談ください。必ずや、お力になれると自負しております。

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