自転車は、子供から大人まで幅広く利用される便利な乗り物です。自動車とは異なり、誰もが乗る乗り物である以上、自転車事故は、誰にでも起こる可能性のある、最も身近な交通事故といって良いでしょう。
現在、日本における自転車の保有台数は世界第6位となっており、日本は、自転車大国といえます。『ながら運転』による歩行者と自転車、自転車と自動車との事故が多いのが現状です。
目次
1. 自転車事故の被害状況と予防策
1-1. 自転車事故の被害状況
平成30年における交通事故の負傷者は約53万人ですが、そのうちの約8万4千人は自転車乗用中に事故にあっています。その件数は、自動車乗用中に次いで2位であり、自転車乗用中の負傷者数は、バイクなどの二輪車乗用中や歩行中の負傷者数を上回っています。
自転車の運転手は事故の加害者になる可能性もありますが、自動車や二輪車と比べると交通弱者であり、被害者となる可能性も非常に高いのが現状です。
1-2. 自転車事故を予防するポイント
「車道は自動車が走っていて不安なので歩道を運転する」という自転車の運転手も多いですが、自転車事故の事故類型では出会い頭の衝突が最多となっています。歩道を走っている自転車は自動車に認定されづらいため、車道に飛び出したときに事故に遭ってしまう可能性が高くなるのです。
交通ルールを順守して車道を走ることは、自身の安全を守ることにもつながるということを覚えておきましょう。
以下が、自転車事故を予防するポイントになります。
自転車安全利用五則
- 自転車は、車道が原則、歩道は例外
- 車道は左側を走行
- 歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行
- 安全ルールを守る
- 子供はヘルメットを着用
2. 自転車事故の発生状況
2020年の自転車乗用中の交通事故件数は6万7,673件で交通事故件数全体に占める割合は21.9%と、未だに2割程度で推移しています。
自転車関連事故件数等の推移
年 | 自転車関連事故件数 | 全事故に占める構成比 |
---|---|---|
2010 | 151,683 | 20.9% |
2011 | 144,062 | 20.8% |
2012 | 132,051 | 19.9% |
2013 | 121,040 | 19.2% |
2014 | 109,269 | 19.0% |
2015 | 98,700 | 18.4% |
2016 | 90,838 | 18.2% |
2017 | 90,407 | 19.1% |
2018 | 85,641 | 19.9% |
2019 | 80,473 | 21.1% |
2020 | 67,673 | 21.9% |
- 引用元:警察庁データ
また、自転車乗用中の死傷者数のうち、20歳未満が27.1%、高齢者が20.8%と、この2つの年齢層でほぼ過半数を占めています。
自転車乗用中の年齢層別交通事故死傷者数の割合(2020年)
年齢 | 割合 |
---|---|
14歳以下 | 9.9% |
15〜19歳 | 17.2% |
20〜24歳 | 6.9% |
25〜29歳 | 6.2% |
30〜39歳 | 11.7% |
40〜49歳 | 12.5% |
50〜59歳 | 10.8% |
60〜64歳 | 4.0% |
65歳以上 | 20.8% |
- 引用元:警察庁データ
3. 自転車事故の類型
一言に自転車事故といっても、その中にはいくつかの類型があります。
類型① | 類型② | 類型③ | |
---|---|---|---|
被害者 | 自転車 | 自転車 | 歩行者 |
加害者 | 車 | 自転車 | 自転車 |
- 類型①:車と自転車の事故
まず、被害者が自転車走行中に加害者側が運転する車と衝突するような類型の自転車事故が考えられます。
- 類型②:自転車同士の事故
また、被害者も加害者もともに自転車という類型の自転車事故も考えられます。
- 類型③:自転車と歩行者の事故
さらに、被害者が歩行者であり、加害者が運転する自転車に轢かれるような類型の自転車事故も考えられます。
4. 自転車事故の特徴
4-1. 加害者が保険未加入のケースが多い
自動車は自賠責保険への加入が法律上義務付けられているため、加害者が自動車の場合は、保険に加入しているケースがほとんどです。また、車の所有者の多くは、強制加入である自賠責保険に加えて、任意の自動車保険にも別途加入しています。
一方、自転車の場合、自転車保険への加入を義務化する条例を設ける自治体が増えてきてはいるものの、自動車と比較すると自転車保険に加入している人はまだまだ少なく、au損保の調査によると、自転車保険への加入率は全国で56.0%となっています。
このように、加害者が自転車の場合に、加害者が保険未加入の場合が多いことが、自転車事故の特徴の一つといえます。
4-2. 過失割合が問題になりやすい
類型①のように、自動車対自転車の事故の場合、怪我を負うのは自転車に乗っていた被害者のみのケースが非常に多いです。しかし、自転車は、道路交通法上は車両としてつまり車と同様に扱われるため、「自転車の過失割合に関しては、単車より有利に修正するものの、歩行者と同程度に有利には修正しない。」これが、基本的な考え方になります。
しかし、一般的に自転車が車両として扱われるという意識がない場合が多く、自分だけが怪我を負っているということもあり、被害者が過失割合に納得しないケースも非常に多いです。
類型②の場合は、車両同士の事故の場合を参考にして考えられますが、車両同士の事故とは当然異なる面もあります。そのため、当事者双方が中々過失割合に納得せず、問題になりやすいといえます。
類型③の場合は、類型①の場合同様、自転車は、道路交通法上は車両として扱われ、車と同様に扱われるため、「過失割合は、自動車と歩行者の事故の場合よりは自転車に有利に修正されるが、歩行者が自転車より有利に扱われることには変わりはない。」これが、基本的な考え方になります。
しかし、やはり、自転車が車両として扱われるという意識に乏しく、歩行者と自転車にそれほどの差はないと考え、加害者が過失割合に納得しないケースも多いです。
4-3. 後遺障害を認定する機関がない
加害者が自動車の交通事故の場合、被害者に後遺障害が残った場合には、加害者の加入する自賠責保険会社を通じて、損害保険料率算出機構が後遺障害の有無及び等級認定を行うことになります。
一方、加害者が自転車の場合、自動車の損害保険料率算出機構のような中立的な立場から後遺障害の有無及び等級を認定する機関は存在しません。
そのため、被害者が、医療記録などの資料を根拠に自身の後遺障害の有無や程度を主張したとしても、第三者機関が認定しているわけではないため、加害者側も容易には納得せずに争いになることが多いのが、自転車事故の特徴の一つになります。
5. 自転車事故の流れ
自転車事故の場合、自動車事故と同様、上図のような流れになります。
自動車事故と同じく、治療を行っても症状が残ってしまった場合には、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。ただ、自転車事故の場合、自賠責保険が適用されませんので、加害者に任意保険がある場合に、任意保険会社に後遺障害を認定してもらうことになります。
しかし、前述の通り、損害保険料率算出機構のように中立の機関ではないこと、後遺障害等級認定の時点で保険金の請求はできないことが特徴であり、自動車事故と比較して難しい部分と言えます。
また、自動車事故と比較した場合に自転車事故で注意が必要なのは、紛争処理センターが使えないという点です。
自動車事故では示談がまとまらない場合、裁判をせず、紛争処理センターで解決することができますが、自転車事故では示談がまとまらない場合は、裁判をせざるを得ません。ただ、裁判となると時間も費用もかかりますので、自動車事故以上に示談で解決せざるを得ない事案が多いのが実態です。
6. 自転車事故の過失割合
過失割合とは、交通事故が発生した原因が、加害者と被害者それぞれにどの程度ずつあるかを割合で示したものになります。たとえ被害者であっても、自転車事故をはじめとした交通事故は、一方だけに過失があるケースは少ないです。よって、過失割合がつくことがほとんどであり、受け取れる賠償金はその割合分引かれることになります。
交通事故は、それぞれ複雑であり、状況や原因も様々ですが、ある程度事故を類型ごとに分類して考えることができます。その事故類型に対して、一定の過失割合の「基準」が定められています。
この基準は、これまでにおこなわれた民事裁判例がもととなっています。
6-1. 過失割合の修正要素
過失割合を決める際は、「別冊判例タイムズ38」「赤い本」といった基準書を用いて決定します。基準書には事故類型に対応する基本の過失割合が設定されており、さらに「修正要素」があるかどうかの検討がおこなわれます。
交通事故における過失割合の修正要素とは、基準となる過失割合をもとにして、それを調整するための加算要素や減算要素のことです。
自転車事故の場合、過失割合の修正要素は非常に多く、注意が必要になります。例として、以下のような行動が修正要素となります。
無灯火で運転・二人乗り・片手運転・両手放し運転・携帯電話の使用・ブレーキ制御機能不動状態での運転・夜間の走行・スピード違反・急な飛び出し・傘差し運転・犬の散歩をしながらの運転・ヘッドホンの使用・徐行義務違反・ベルの不装着や不良・サイズが合っていない自転車に乗っていた、など
6-2. 過失割合の3パターン
ではここで、自転車事故における基本の過失割合を、「自転車対自動車」「自転車対歩行者」「自転車同士」の3パターンに分けて、ご説明します。
① 自転車 対 自動車
自転車対自動車の事故では、自転車のほうが有利となるケースが多いです。
信号のない交差点の出会い頭における自転車と自動車の衝突(道幅は同じ)
→自転車:自動車=20:80
信号のない交差点を直進する自転車と、対向側から右折する自動車の衝突
→自転車:自動車=10:90
自転車は車両であるにもかかわらず車両としての意識が低いため、被害感情が強くなりやすくなります。そのため、自転車事故では過失割合が争いになるケースが多くなっています。
② 自転車 対 歩行者
自転車対歩行者の事故では、歩行者のほうが有利となるケースが多いです。自転車は、道路交通法上、車両として扱われるため、歩行者より、過失割合は不利になるケースが多いです。
横断歩道を横切る自転車と横断歩道を渡る歩行者の衝突(信号なし)
→自転車:歩行者=100:0
歩車道区別のない道路の左端側を通行する歩行者に自転車が追突または正面衝突
→自転車:歩行者=95:5
対歩行者の事故の場合、歩行者側にも一定程度の過失があると認められやすい傾向にありますが、それでもやはり、基本的には自転車のほうの過失が大きいと判断されるケースが多いのが実際です。
③ 自転車同士
自転車同士の事故については、記載がないため、過去の判例などを参考に過失割合を決めていくことになります。
判例自体はたくさんありますので、どれくらいの過失割合が妥当なのか、分かりにくくなってしまいます。よって、自転車同士の事故に遭ってしまった方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
過失割合については、保険会社から提示を受けることがほとんどです。ですが、実際、提示を受けたところで、その提示された過失割合が妥当なものかどうか、分からない方がほとんどのことと思います。保険会社が提示した過失割合をただ鵜呑みにしていては、損をしてしまう可能性があります。
過失割合について疑問点がある方、不満がある方、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
7. 自転車事故の示談と示談金
自転車事故で負った損害は、もちろん、自動車事故と同様、加害者側に請求することができます。
示談においては、被害者側の保険会社と加害者側が交渉をして賠償金の金額を決定します。また、示談金には、治療費や慰謝料、休業損害等の全てが含まれます。つまり、自転車事故における慰謝料は、示談金の一部と言うことになります。
基本的に、慰謝料を受け取りできるのは示談が成立した後になります。
7-1. 自転車事故における示談金の項目について
示談金には、被害者が事故で負った様々な損害の賠償が含まれます。
怪我の治療費だけでなく、病院までの交通費や入院雑費なども請求できます。入院や通院によって仕事を休むことを余儀なくされた場合は、それによって失われた収入も休業補償として請求できます。
また、慰謝料には、怪我をした場合に支払われる傷害慰謝料のほか、後遺障害が残ってしまった場合に支払われる後遺障害慰謝料といったものも存在します。
また、後遺障害の影響によって失われる将来の収入も逸失利益として請求できます。ただし、これらを請求するためには、後遺障害等級の認定を申請して認められる必要があります。
7-2. 示談金の受取について
示談金の受取までの流れは、以下のような流れになります。
示談交渉は、被害者の負った損害額の総額が計算できるようになったタイミングで始まるため、基本的に怪我の治療が完了するまで、つまり症状固定したタイミングで開始されます。
そのため、怪我の状態によっては、開始までに1年以上かかる場合があり、また、示談が開始してからも、多くのケースでは1ヶ月~半年程度の時間がかかります。示談交渉は、時間や手間がかかってしまいますが、損害賠償の請求には時効があるため、可能な限り早くから手続きを進めておく必要があります。
また、示談が難航してしまい、裁判になってしまう可能性ももちろんあります。その場合は、解決までにさらに時間や手続きがかかってしまいます。
通常、示談は加害者本人とではなく、加害者側の保険会社と行います。保険会社の担当者は、示談交渉の経験豊富なプロであるため、被害者本人が示談に挑むと、不利になる場合が多々あります。
私ども弁護士は、示談交渉や裁判の提起を代理で行いますので、弁護士に依頼していただくことで、被害者の方の負担を減らすことができます。また、慰謝料等の金額も変わってくる可能性が大いにあります。示談金の金額は、事故直後からの対応で変わってきます。後の示談を見据えて、自転車事故が発生した際は、早めの対応をおすすめいたします。
弁護士への無料相談は、もちろん示談が始まる前から可能ですので、自転車事故でお悩みの方は、ぜひ一度、当弁護士法人きさらぎの無料相談に一度お越しください。